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2024/11/21 17:29
平成30年 第2問の答え 司法試験
本問は,Xが消防法及び危険物の規制に関する政令(以下「危険物政令」という。)上の一般取扱所(以下「本件取扱所」という。)を設置していたところ,近隣に葬祭場(以下「本件葬祭場」という。)が建築されたことから,Y市長がXに対して移転命令(以下「本件命令」という。)を発しようとしている事案における法的問題について論じさせるものである。論じさせる問題は,本件命令に対する事前の抗告訴訟の適法性(設問1),本件命令が発せられた場合における本件命令の適法性(設問2),Xが本件命令に従った場合における損失補償の要否(設問3)である。問題文と資料から基本的な事実関係を把握し,消防法及び関係法令の関係規定の趣旨を読み解いた上で,行政処分の適法性,抗告訴訟の訴訟要件,及び損失補償の要否を論じる力を試すものである。 設問1は,処分の差止め訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問う問題である。考えられるXの訴えとして本件命令の差止め訴訟を挙げた上で,本件の事実関係の下で,当該訴えが行政事件訴訟法第3条第7項及び第37条の4に規定された「一定の処分…がされようとしている」,「重大な損害を生ずるおそれ」,「損害を避けるため他に適当な方法がある」とはいえない等の訴訟要件を満たすか否かについて検討することが求められる。特に,「重大な損害を生ずるおそれ」の要件については,最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決(民集66巻2号183頁)を踏まえて判断基準を述べた上で,本件命令後直ちにウェブサイトで公表されて顧客の信用を失うおそれがあることが,同要件に該当するかを検討することが求められる。 設問2は,保安距離の短縮に関するY市の内部基準(以下「本件基準」という。)に従って行われる本件命令の適法性の検討を求めるものである。まず,本件命令の根拠規定である消防法第12条第2項及び危険物政令第9条第1項第1号の趣旨,内容及び要件・効果の定め方から,Y市長が本件命令を発するに当たり,裁量が認められるか,そして,距離制限による保安物件の安全の確保と,保安物件が新設された場合に既存の一般取扱所の所有者等が負う可能性のある負担とを,どのように考慮して調整することが求められるかを検討しなければならない。次いで,危険物政令第9条第1項第1号ただし書及び第23条のそれぞれの趣旨,要件・効果及び適用範囲を比較して両者の相互関係を論じ,後者の規定を本件に適用する余地があるかを検討することが求められる。そして,本件基準の法的性質について,それが上記の裁量を前提にすると裁量基準(行政手続法上の処分基準)に当たることを示し,本件基準①,②それぞれについて,法令の関係規定の趣旨に照らし裁量基準として合理的かどうか,基準としては合理的であっても,本件における個別事情を考慮して例外を認める余地がないか,検討することが求められる。すなわち,本件基準①の短縮条件として,工業地域につき倍数(取扱所で取り扱われる危険物の分量)の上限が定められていることは合理的か,本件基準②の短縮限界距離が,本件基準③所定の防火塀の高さを前提に諸事情を考慮して設けられていることは合理的か,そして,本件基準①及び②を僅かに満たさない場合に,水準以上の防火塀や消火設備の設置を理由に同基準の例外を認めるべきか等の論点を指摘しなければならない。 設問3は,損失補償の定めが法律になくても,憲法第29条第3項に基づき損失補償を請求できるという解釈を前提にした上で,本件の事実関係の下でXがY市に損失補償を請求することができるかについて論じることを求めている。まず,消防法第12条1項の維持義務の性質についての検討が求められる。その際,地下道新設に伴う石油貯蔵タンクの移転に対する道路法第70条第1項に基づく損失補償の要否が問題となった最高裁昭和58年2月18日第二小法廷判決(民集37巻1号59頁)の趣旨も踏まえなければならない。この維持義務が公共の安全のための警察規制であって,取扱所の所有者等は許可を受けた時点以降も継続的に基準適合状態を維持しなければならないという趣旨であるとすれば,事後的な事情変更があっても,少なくとも本件取扱所の所有者等が当該事情の発生を本件取扱所の設置時にあらかじめ計画的に回避することが可能であった場合については,損失補償は不要といえないか,検討しなければならない。その上で,第一種中高層住居専用地域から第二種中高層住居専用地域への用途地域の指定替えによる本件葬祭場の新設は,計画的に回避することが不可能な事情といえるか,そもそも指定替え前の第一種中高層住居専用地域においても学校,病院等が建築可能であることをどう考えるかなどを論じることが求められる。 なお,受験者が出題の趣旨を理解して実力を発揮できるように,本年も各設問の配点割合を明示することとした。
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2018/06/30 14:52
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平成30年 第2問 司法試験
株式会社Xは,指定数量以上の灯油を取り扱うため,消防法第10条第1項及び危険物の規制に関する政令(以下「危険物政令」という。)第3条第4号所定の一般取扱所に当たる取扱所(以下「本件取扱所」という。)につき,平成17年にY市長から消防法第11条第1項による設置許可を受け,灯油販売業を営んでいた(消防法その他の関係法令については【資料1】参照)。本件取扱所は,工業地域に所在し,都市計画法及び建築基準法上,適法に建築されている。建築基準法上は,都市計画法上の用途地域ごとに,一般取扱所を建築できるか否かが定められ,建築できる用途地域については,工業地域を除き,一般取扱所で取り扱うことのできる危険物の指定数量の倍数(取扱所の場合,当該取扱所において取り扱う危険物の数量を当該危険物の指定数量で除して得た値を指す。以下「倍数」という。)の上限が規定されているが,工業地域については,倍数の制限なく一般取扱所を建築できることとされている。本件取扱所において現在取り扱われている倍数は55である。
ところが,本件取扱所から18メートル離れた地点において,株式会社Aが葬祭場(以下「本件葬祭場」という。)の建築を計画し,平成27年1月にY市建築主事から建築確認(以下「本件建築確認」という。)を受けた上で,建築工事を完了させ,同年5月末には営業開始を予定している。本件葬祭場の所在地は,平成17年の時点では第一種中高層住居専用地域とされていたため,都市計画法及び建築基準法上,葬祭場の建築は原則として不可能であったが,平成26年に,Y市長が都市計画法に基づき第二種中高層住居専用地域に指定替えする都市計画決定(以下「本件都市計画決定」という。)を行い,葬祭場の建築が可能になった。本件建築確認及び本件都市計画決定は,いずれも適法なものであった。
本件葬祭場の営業開始が法的な問題を発生させるのではないかという懸念を抱いたXの社員Bが,Y市の消防行政担当課に問い合わせたところ,同課職員Cは次のような見解を示した。
(1) 本件葬祭場は,一般的な解釈に従えば,危険物政令第9条第1項第1号ロの「学校,病院,劇場その他多数の人を収容する施設で総務省令で定める」建築物(以下,同号に定める建築物を「保安物件」という。)に当たるから,危険物政令第19条第1項により準用される危険物政令第9条第1項第1号本文にいう距離(以下「保安距離」という。)として,本件取扱所と本件葬祭場との間は30メートル以上を保たなければならない。
(2) ただし,保安距離は,危険物政令第19条第1項により準用される危険物政令第9条第1項第1号ただし書によって,市町村長が短縮することができる。Y市は,保安距離の短縮に関して内部基準(以下「本件基準」という。【資料2】参照)を定めている。本件基準は,①一般取扱所がいずれの用途地域に所在するかに応じて,倍数の上限(以下「短縮条件」という。),②保安物件の危険度(保安物件の立地条件及び構造により判定される。)及び種類,並びに一般取扱所で取り扱う危険物の量(倍数)及び種類ごとに,短縮する場合の保安距離の下限(以下「短縮限界距離」という。),③取扱所の高さ,保安物件の高さ及び防火性・耐火性,並びに両者間の距離から算定される,必要な防火塀の高さを定めている。そして,本件基準は,これら3つの要件が全て満たされる場合に限り,保安距離を短縮することができるとしている。本件基準によれば,本件取扱所が所在する工業地域における短縮条件としての倍数の上限は50であり,第二石油類に該当する灯油を取扱い,かつ,倍数が10以上の本件取扱所及び本件葬祭場に適用される短縮限界距離は20メートルである。
(3) 本件葬祭場が営業を始めた場合,本件取扱所は,上記①及び②の要件を満たさないため,保安距離を短縮することができず,消防法第10条第4項の技術上の基準に適合しないこととなる。そこで,Y市長としては,消防法第12条第2項に基づき,Xに対し,本件取扱所を本件葬祭場から30メートル以上離れたところに移転すべきことを求める命令(以下「本件命令」という。)を発する予定である。
Xとしては,本件基準③の定める高さより高い防火塀を設置すること,及び危険物政令で義務付けられた水準以上の消火設備を増設することについては,技術的にも経営上も可能であり,実施する用意がある。他方,Xは,現在の倍数を減らすと経営が成り立たなくなるため,現在の倍数を減らせない状況にある。また,Xの所有する敷地内において,本件取扱所を本件葬祭場から20メートル以上離れた位置に移設することは不可能である。このような事情の下で,職員Cの見解に従うとすれば,Xは本件取扱所を他所に移転せざるを得ず,巨額な費用を要することになる。納得がいかない社員Bは,知り合いの弁護士Dに相談した。
以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って,設問に答えなさい。
なお,消防法,都市計画法,建築基準法及び危険物政令の抜粋を【資料1 関係法令】に,本件基準の抜粋を【資料2 本件基準(抜粋)】に,それぞれ掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
Xは,本件命令が発せられることを事前に阻止するために,抗告訴訟を適法に提起することができるか。行政事件訴訟法第3条第2項以下に列挙されている抗告訴訟として考えられる訴えを具体的に挙げ,その訴えが訴訟要件を満たすか否かについて検討しなさい。
〔設問2〕
仮に,本件命令が発せられ,Xが本件命令の取消しを求める訴訟を提起した場合,この取消訴訟において本件命令は適法と認められるか。消防法及び危険物政令の関係する規定の趣旨及び内容に照らして,また,本件基準の法的性質及び内容を検討しながら,本件命令を違法とするXの法律論として考えられるものを挙げて,詳細に論じなさい。解答に当たっては,職員Cの見解のうち(1)の法解釈には争いがないこと,及び本件命令に手続的違法はないことを前提にしなさい。
〔設問3〕
仮に,本件命令が発せられ,Xが本件命令に従って本件取扱所を他所に移転させた場合,Xは移転に要した費用についてY市に損失補償を請求することができるか。解答に当たっては,本件命令が適法であること,及び損失補償の定めが法律になくても,憲法第29条第3項に基づき損失補償を請求できることを前提にしなさい。
【法律事務所の会議録】
弁護士D:本日は,Xの案件について議論したいと思います。Xからは,「できれば事前に本件命令を阻止できないか。」と相談されています。Y市では,消防法第12条第2項による移転命令を発した場合,直ちにウェブサイトで公表する運用をとっており,Xは,それによって顧客の信用を失うことを恐れているのです。
弁護士E:本件葬祭場の営業が開始されれば,Y市長が本件命令を発することが確実なのですね。
弁護士D:はい。その点は,私からもY市の消防行政担当課に確認をとりました。
弁護士E:では,本件命令が発せられることを,抗告訴訟によって事前に阻止することが可能か,検討してみます。
弁護士D:お願いします。次に,本件命令を事前に阻止できず,本件命令が発せられた場合,Xとしては取消訴訟を提起して本件命令の適法性を争うことを考えています。消防法と危険物政令の関係規定をよく読んで,本件命令を違法とする法律論について検討してください。なお,本件葬祭場が,危険物政令第9条第1項第1号ロの保安物件に該当するかどうかについて議論の余地がないわけではありませんが,その点は今回は検討せず,該当することを前提としてください。
弁護士E:危険物政令第9条第1項第1号ただし書については,本件基準が定められていますので,気になって立法経緯を調べました。このただし書の規定は,製造所そのものに変更がなくても,製造所の設置後,製造所の周辺に新たに保安物件が設置された場合に,消防法第12条により,製造所の移転等の措置を講じなければならなくなる事態を避けることを主な目的にして定められた,とのことです。したがって,新たに設置される製造所の設置の許可に際して,このただし書の規定を適用し,初めから保安距離を短縮する運用は,規定の趣旨に合わないと,行政実務上は考えられています。
弁護士D:では,このただし書の規定の趣旨・内容及び本件基準の法的性質を踏まえた上で,本件基準①及び②について検討してください。「倍数」は,耳慣れない用語かもしれませんが,取扱所で取り扱われている危険物の分量と考えてください。なお,このただし書にある,市町村長等が「安全であると認め」る行為が行政処分でないことは明らかですから,処分性の問題は考えなくて結構です。本件基準①は,工業地域などの用途地域について触れていますが,用途地域の制度の概要は御存じですね。
弁護士E:もちろんです。用途地域は,基本的に市町村が都市計画法に基づき都市計画に定めるもので,用途地域の種類ごとに,建築基準法別表第二に,原則として建築が可能な用途の建築物又は不可能な用途の建築物が列挙されています。
弁護士D:そのとおりです。建築基準法上,工業地域においては,一般取扱所を建築でき,倍数に関する制限もありません。
弁護士E:分かりました。それから,危険物政令第23条が,製造所,取扱所等の位置,構造及び設備の基準の特例を定めていますので,この規定についても立法経緯を調べました。消防法が昭和34年に改正される以前には,各市町村長が各市町村条例の定めるところにより異なる基準を設けて危険物規制を行っていたのですが,同年に改正された消防法により,危険物規制の基準が全国で統一されました。一方で,現実の社会には一般基準に適合しない特殊な構造や設備を有する危険物施設が存在し,また,科学技術の進歩に伴って一般基準において予想もしない施設が出現する可能性があるため,こうした事態に市町村長等の判断と責任において対応し,政令の趣旨を損なうことなく実態に応じた運用を可能にするために,危険物政令第23条が定められた,とのことです。
弁護士D:なるほど。検討に当たっては,危険物政令第9条第1項第1号本文の保安距離の例外を認めるために,同号ただし書が定められているとして,更に第23条を適用する余地があるかなど,第9条第1項第1号ただし書と第23条との関係についても整理しておく必要がありそうですね。
弁護士E:分かりました。それから,事情を確認したいのですが,Xは,防火塀の設置及び消火設備の増設も考えているのですね。
弁護士D:はい,移転よりはずっと費用が安いですから,本件基準③の定める高さ以上の防火塀の設置や,法令で義務付けられた水準以上の消火設備を増設する用意があるとのことでした。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:さらに,Xは,「敗訴の可能性もあるから,本件命令に従って他所に移転することも考えている。しかし,それには巨額の費用が掛かるが,Y市に補償を要求できないだろうか。」とも言っていました。そこで,Xが本件命令に従う場合や,本件命令の取消訴訟で敗訴した場合を想定して,損失補償の可能性も検討する必要があります。消防法上,本件のような場合について補償の定めはないのですね。
弁護士E:はい,ありません。
弁護士D:個別法に損失補償の定めがない場合に,憲法に基づき直接補償を請求できるかどうかについて,学説上議論がないわけではありませんが,その点は今回は検討せず,損失補償請求権が憲法第29条第3項により直接発生することを前提として,主張を組み立ててください。
弁護士E:消防法第12条は,取扱所の所有者等に対して,第10条第4項の技術上の基準に適合するように維持すべき義務を課しています。この第12条の趣旨をどう理解するか,その趣旨が損失補償と関係するかが問題になりそうですね。
弁護士D:さらに,次のような事情も問題になりそうです。Xが本件取扱所の営業を始めた平成17年の時点では,本件葬祭場の所在地は,用途地域の一つである第一種中高層住居専用地域とされていました。第一種中高層住居専用地域では,原則として,建築基準法別表第二(は)項に列挙されている用途の建築物に限り建築できるのですが,葬祭場はここに列挙されておらず,建築が原則として不可能でした。しかし,平成26年の都市計画決定で第二種中高層住居専用地域に指定替えがされて建築規制が緩和されたため,葬祭場の建築が可能になりました。第二種中高層住居専用地域では,別表第二(に)項に列挙されていない用途の建築物であれば建築でき,葬祭場は,同(に)項7号及び8号の「(は)項に掲げる建築物以外の建築物の用途に供する」建築物に当たりますので,二階建てまでで床面積が1500平方メートルを超えなければ,建築できるのです。
弁護士E:分かりました。そのような事情が損失補償と関係するかどうか,検討してみます。
弁護士D:よろしくお願いします。本件命令が発せられた場合のXの対応方針を決めるに当たっては,一方で,取消訴訟を提起したとして本件命令が違法とされる見込みがどの程度あるか,他方で,損失補償が認められる見込みがどの程度あるかを,判断の基礎にする必要がありますので,綿密に検討を進めてください。
【資料1 関係法令】
○ 消防法(昭和23年7月24日法律第186号)(抜粋)
第1条 この法律は,火災を予防し,警戒し及び鎮圧し,国民の生命,身体及び財産を火災から保護するとともに,火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか,災害等による傷病者の搬送を適切に行い,もつて安寧秩序を保持し,社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。
第2条 この法律の用語は左の例による。
2~6 (略)
7 危険物とは,別表第一の品名欄に掲げる物品で,同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するものをいう。〔(注) 別表第一には,「第四類引火性液体」として,第二石油類が掲げられ,「備考十四」として,「第二石油類とは,灯油,軽油その他(中略)をいい,」と記されている。〕
第10条 指定数量以上の危険物は,貯蔵所(中略)以外の場所でこれを貯蔵し,又は製造所,貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱つてはならない。(以下略)〔(注) 消防法上,指定数量とは,「危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量」をいう。〕
2 (略)
3 製造所,貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱は,政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。
4 製造所,貯蔵所及び取扱所の位置,構造及び設備の技術上の基準は,政令でこれを定める。
第11条 製造所,貯蔵所又は取扱所を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,製造所,貯蔵所又は取扱所ごとに,次の各号に掲げる製造所,貯蔵所又は取扱所の区分に応じ,当該各号に定める者の許可を受けなければならない。製造所,貯蔵所又は取扱所の位置,構造又は設備を変更しようとする者も,同様とする。
一 消防本部及び消防署を置く市町村(中略)の区域に設置される製造所,貯蔵所又は取扱所(中略)当該市町村長
二~四 (略)
2 前項各号に掲げる製造所,貯蔵所又は取扱所の区分に応じ当該各号に定める市町村長,都道府県知事又は総務大臣(以下この章及び次章において「市町村長等」という。)は,同項の規定による許可の申請があつた場合において,その製造所,貯蔵所又は取扱所の位置,構造及び設備が前条第4項の技術上の基準に適合し,かつ,当該製造所,貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは,許可を与えなければならない。
3~7 (略)
第12条 製造所,貯蔵所又は取扱所の所有者,管理者又は占有者は,製造所,貯蔵所又は取扱所の位置,構造及び設備が第10条第4項の技術上の基準に適合するように維持しなければならない。
2 市町村長等は,製造所,貯蔵所又は取扱所の位置,構造及び設備が第10条第4項の技術上の基準に適合していないと認めるときは,製造所,貯蔵所又は取扱所の所有者,管理者又は占有者で権原を有する者に対し,同項の技術上の基準に適合するように,これらを修理し,改造し,又は移転すべきことを命ずることができる。
3 (略)
○ 都市計画法(昭和43年6月15日法律第100号)(抜粋)
(地域地区)
第8条 都市計画区域については,都市計画に,次に掲げる地域,地区又は街区を定めることができる。
一 第一種低層住居専用地域,第二種低層住居専用地域,第一種中高層住居専用地域,第二種中高層住居専用地域,第一種住居地域,第二種住居地域,準住居地域,近隣商業地域,商業地域,準工業地域,工業地域又は工業専用地域(以下「用途地域」と総称する。)
二~十六 (略)
2~4 (略)
第9条 1・2 (略)
3 第一種中高層住居専用地域は,中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域とする。
4 第二種中高層住居専用地域は,主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域とする。
5~10 (略)
11 工業地域は,主として工業の利便を増進するため定める地域とする。
12~22 (略)
○ 建築基準法(昭和25年5月24日法律第201号)(抜粋)
(用途地域等)
第48条 1・2 (略)
3 第一種中高層住居専用地域内においては,別表第二(は)項に掲げる建築物以外の建築物は,建築してはならない。ただし,特定行政庁が第一種中高層住居専用地域における良好な住居の環境を害するおそれがないと認め,又は公益上やむを得ないと認めて許可した場合においては,この限りでない。
4 第二種中高層住居専用地域内においては,別表第二(に)項に掲げる建築物は,建築してはならない。ただし,特定行政庁が第二種中高層住居専用地域における良好な住居の環境を害するおそれがないと認め,又は公益上やむを得ないと認めて許可した場合においては,この限りでない。
5~15 (略)
別表第二 (い)・(ろ) (略)
(は) 第一種中高層住居専用地域内に建築することができる建築物
一 (い)項第1号から第9号までに掲げるもの〔(注) (い)項第1号に「住宅」,同第4号に「学校(大学,高等専門学校,専修学校及び各種学校を除く。)」等が挙げられている。〕
二 大学,高等専門学校,専修学校その他これらに類するもの
三 病院
四~八 (略)
(に) 第二種中高層住居専用地域内に建築してはならない建築物
一~六 (略)
七 三階以上の部分を(は)項に掲げる建築物以外の建築物の用途に供するもの(以下略)
八 (は)項に掲げる建築物以外の建築物の用途に供するものでその用途に供する部分の床面積の合計が1500平方メートルを超えるもの(以下略)
(ほ)~(わ) (略)
○ 危険物の規制に関する政令(昭和34年9月26日政令第306号)(抜粋)
〔(注) 本政令中,「法」は消防法を指す。〕
(取扱所の区分)
第3条 法第10条の取扱所は,次のとおり区分する。
一~三 (略)
四 前3号に掲げる取扱所以外の取扱所(以下「一般取扱所」という。)
(製造所の基準)
第9条 法第10条第4項の製造所の位置,構造及び設備(中略)の技術上の基準は,次のとおりとする。
一 製造所の位置は,次に掲げる建築物等から当該製造所の外壁又はこれに相当する工作物の外側までの間に,それぞれ当該建築物等について定める距離を保つこと。ただし,イからハまでに掲げる建築物等について,不燃材料(中略)で造つた防火上有効な塀を設けること等により,市町村長等が安全であると認めた場合は,当該市町村長等が定めた距離を当該距離とすることができる。
イ (略)
ロ 学校,病院,劇場その他多数の人を収容する施設で総務省令で定めるもの30メートル以上
ハ~へ (略)
二~二十二 (略)
2・3 (略)
(一般取扱所の基準)
第19条 第9条第1項の規定は,一般取扱所の位置,構造及び設備の技術上の基準について準用する。
2~4 (略)
(基準の特例)
第23条 この章〔(注) 第9条から第23条までを指す。〕の規定は,製造所等について,市町村長等が,危険物の品名及び最大数量,指定数量の倍数,危険物の貯蔵又は取扱いの方法並びに製造所等の周囲の地形その他の状況等から判断して,この章の規定による製造所等の位置,構造及び設備の基準によらなくとも,火災の発生及び延焼のおそれが著しく少なく,かつ,火災等の災害による被害を最少限度に止めることができると認めるとき,又は予想しない特殊の構造若しくは設備を用いることにより,この章の規定による製造所等の位置,構造及び設備の基準による場合と同等以上の効力があると認めるときにおいては,適用しない。
【資料2 本件基準(抜粋)】
Y市長が一般取扱所について危険物政令第19条第1項の規定により準用される第9条第1項第1号ただし書の規定を適用する場合は,以下の基準による。
① 短縮条件
倍数が次に掲げる数値を超える一般取扱所については,危険物政令第9条第1項第1号本文の保安距離を短縮することができない。
一・二 (略)
三 準工業地域又は工業地域に所在する一般取扱所 50
② 短縮限界距離
一般取扱所については,防火塀を設けることにより,次に掲げる距離を下限として,危険物政令第9条第1項第1号本文の保安距離を短縮することができる。
一 保安物件が危険物政令第9条第1項第1号ロに規定する建築物であり,別表に基づき保安物件の立地条件及び構造から判定される危険度がC(最小)のランクである場合〔(注) 本件葬祭場はこのCのランクに該当する。〕
(い) 一般取扱所が第二石油類(中略)を取り扱い,倍数が10未満の場合18メートル
(ろ) 一般取扱所が第二石油類(中略)を取り扱い,倍数が10以上の場合20メートル
(は)・(に) (略)
二~九 (略)
③ 防火塀の高さ
必要な防火塀の高さは,取扱所の高さ,保安物件の高さ,保安物件の防火性・耐火性の程度,及び保安物件と一般取扱所との距離を変数として,次の数式により算定する。(以下略)
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2018/06/30 14:51
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平成30年 第1問の答え 司法試験
本年は,平等の問題と表現の自由の問題を問うこととした。本年の問題も,憲法上の基本的な問題の理解や,その上での応用力を見ようとするものである。しかし,問題の構成については,次の点で従来のものを変更した。 まず,従来は,「被告の反論」を「あなた自身の見解」を中心とする設問2に置いていたが,それを「原告の主張」と対比する形で設問1に置き,さらに,各設問の配点も明記することにした。これまで出題側としては,「被告の反論」の要点を簡潔に記述した上で,「あなた自身の見解」を手厚く論じることを期待して,その旨を採点実感等に関する意見においても指摘してきたが,依然として「被告の反論」を必要以上に長く論述する答案が多く,そのことが本来であれば手厚く論じてもらいたい「あなた自身の見解」の論述が不十分なものとなる一つの原因になっているのではないかと考えたからである。そこで,本年は,「原告の主張」と「被告の反論」の両者を設問1の小問として論じさせることとし,かつ,配点を明記することによって,「被告の反論」について簡にして要を得た記述を促し,ひいては「あなた自身の見解」の論述が充実したものとなることを期待した。 また,論文式試験においては,設問の具体的事案のどこに,どのような憲法上の問題があるのかを的確に読み取って発見する能力自体も重視される。しかし,本年は,論述の出発点である原告となるBが憲法との関係で主張したい点を問題文中に記載することとした。これは,後述するように,本問には平等に関してこれまで論じられてきた典型的な問題とは異なる問題も含まれており,この点も含めてひとまず平等に着目した論述を期待する見地からである。また,平等の問題と表現の自由の問題は,いずれも多くの論点を含む憲法上の基本的な問題であるため,着眼点を具体的に示すことで,その分,論述内容の充実を求めたいとの考えもあった。そこで,本年は,原告となるBが主張したい点につき問題文中で明記するとともに,設問1において,「Bの主張にできる限り沿った訴訟活動を行うという観点から」との条件を付した。 本年の問題の一つは平等である。憲法第14条第1項の「法の下の平等」について,判例・多数説は,絶対的平等ではなく,相対的平等を意味するとしている。この平等に関し,原告となるBは,Dらとの比較において,これまで論じられてきた問題を提起しているほか,Cとの比較において,「違う」のに「同じ」に扱われたという観点からの問題も提起している。平等が問題となる具体的事例においては,何が「同じ」で,何が「違う」のかを見分けることが議論の出発点となることから,本問でも,まずは,Bの主張を踏まえ,「同じ」点と「違う」点についての具体的な指摘とその憲法上の評価が求められることとなる。その上で,憲法が要請する平等の本質等にも立ち返りつつ,自由権侵害とは異なる場面としての平等違反に関する判断枠組みをどのように構成するかが問われることになる。 そして,典型的な問題であるDらとの比較については,判定期間中のBの勤務実績は,正式採用された「Dらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであった」にもかかわらず,A市は,Dらを正式採用する一方で,「Y採掘事業に関する・・・考えを踏まえると,Y対策課の設置目的や業務内容に照らしてふさわしい能力・資質等を有しているとは認められなかった」として,Bを正式採用しなかったことについての検討が必要となる。すなわち,Bは,「Yが有力な代替エネルギーであると考えているが,その採掘には・・・危険性があることから,この点に関する安全確保の徹底が必要不可欠であると考えて」おり,Y採掘事業の必要性や有益性を認めているが,その採掘においては種々の危険があるので,安全性が最重要と考えている者である。この場合,天然資源開発に伴う危険性を踏まえ,その安全性の確保を最重要視する考え自体が不当な考えであるとは言えないはずである。それにもかかわらず,A市が上述のような考えを持つBを正式採用せず,ほぼ同程度ないし下回る勤務実績のDらを正式採用したことは,天然資源開発における安全性の確保という言わば当然とも言うべき基本的な考え自体を否定的に評価するもので,憲法第14条第1項で例示されている「信条」に基づく不合理な差別となるのではないかという検討が必要である。 また,本年の問題で,原告となるBは,Cと「違う」にもかかわらずCと「同じ」に扱われて正式採用されなかったという点からも問題提起をしている。ここで問題となるのは,BとCはいずれも正式採用されなかったところ,Y採掘事業に関する両者の意見は,結論としては反対意見の表明という共通性があるとしても,その具体的な内容が違うことに加え,BとCがそれぞれの意見表明に当たってとった手法・行動等も違うことである。したがって,ここでは,こうしたBとCとの具体的な「違い」を憲法上どのように評価するかを踏まえた論述が求められる。 本年のもう一つの問題は,表現の自由である。すなわち,Bは,自分の意見・評価を甲市シンポジウムで「述べたこと」が正式採用されなかった理由の一つとされたことを問題視しているので,そこでは,内面的精神活動の自由である思想の自由の問題よりも,外面的精神活動の自由である表現の自由の問題として論じることが期待される。その際には,意見・評価を述べること自体が直接制約されているものではないことを踏まえつつ,「意見・評価を甲市シンポジウムで述べたこと」が正式採用されなかった理由の一つであることについて,どのような意味で表現の自由の問題となるのかを論じる必要がある。そのような観点からは,上述のような理由により正式採用されないことは,Bのみならず,一般に当該問題について意見等を述べることを萎縮させかねないこと(表現の自由に対する萎縮効果)をも踏まえた検討が必要となる。 その上で,この点に関しては,正式採用の直前においてもBが反対意見を述べていることなどから惹起される「業務に支障を来すおそれ」の有無についての検討も必要となる。その検討に当たっては,外面的精神活動の自由である表現の自由の制約に関する判断枠組みをどのように構成するかが問われることとなるところ,例えば,内容規制と評価し,表現の自由が問題となった様々な判例を踏まえた判断枠組みも考えられるであろう。どのように判断枠組みを構成するかは人それぞれであるが,いずれにしても,一定の判断枠組みを用いる場合には,学説・判例上で議論されている当該判断枠組みがどのような内容であるかを正確に理解していることが必要である。その上で,本問においてなぜその判断枠組みを用いるのかについての説得的な理由付けも必要であるし,判例を踏まえた論述をする際には,単に判例を引用するのではなく,当該判例の事案と本問との違いも意識した論述が必要となる。
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平成30年 第1問 司法試験
20XX年,A市において,我が国がほぼ全面的に輸入に頼っている石油や石炭の代替となり得る新たな天然ガス資源Yが大量に埋蔵されていることが判明し,民間企業による採掘事業計画が持ち上がった。その採掘には極めて高い経済効果が見込まれ,A市の税収や市民の雇用の増加も期待できるものであった。
ただし,Y採掘事業には危険性が指摘されている。それは,採掘直後のYには人体に悪影響を及ぼす有害成分が含まれており,採掘の際にその有害成分が流出・拡散した場合,採掘に当たる作業員のみならず,周辺住民に重大な健康被害を与える危険性である。この有害成分を完全に無害化する技術は,いまだ開発されていなかった。また,実際,外国の採掘現場において,健康被害までは生じなかったが,小規模の有害成分の流出事故が起きたこともあった。そのため,A市においては,Y採掘事業に関して市民の間でも賛否が大きく分かれ,各々の立場から活発な議論や激しい住民運動が行われることとなった。
BとCは,A市に居住し,天然資源開発に関する研究を行っている大学院生であった。Bは,Yが有力な代替エネルギーであると考えているが,その採掘には上記のような危険性があることから,この点に関する安全確保の徹底が必要不可欠であると考えている。これに対して,Cは,上記のような危険性を完全に回避する技術の開発は困難であり,安全性確保の技術が向上したとしてもリスクが大きいと確信しており,Y採掘事業は絶対に許されないと考えている。
ところで,この頃,Bの実家がある甲市でもYの埋蔵が判明しており,Y採掘事業への賛否をめぐり,甲市が主催するYに関するシンポジウム(以下「甲市シンポジウム」という。)が開催されていた。甲市シンポジウムは,地方公共団体が主催するものとしては,日本で初めてのシンポジウムであった。Bは,実家に帰省した際,甲市シンポジウムに参加し,一般論として上記のような自らの考えを述べた。その上で,Bは,A市におけるY採掘事業計画を引き合いに出して,作業員や周辺住民への健康被害の観点から安全性が十分に確保されているとはいえず,そのような現状においては当該計画に反対せざるを得ない旨の意見を述べた。
他方で,Cは,甲市シンポジウムの開催を知り,その開催がA市を含む全国各地におけるY採掘事業に途を開くことになると考えた。そこで,Cは,甲市シンポジウムの開催自体を中止させようと思い,Yの採掘への絶対的な全面反対及び甲市シンポジウムの即刻中止を拡声器で連呼しながらその会場に入場しようとした。そして,Cは,これを制止しようとした甲市の職員ともみ合いになり,その職員を殴って怪我を負わせ,傷害罪で罰金刑に処せられた。ただし,この事件は,全国的に大きく報道されることはなかった。
その後,Yの採掘の際に上記の有害成分を無害化する技術の改善が進んだ。A市は,そのような技術の改善を踏まえ,Y採掘事業を認めることとした。他方で,それでもなお不安を訴える市民の意見を受け,A市は,その実施に向けて新しい専門部署として「Y対策課」を設置することとした。Y対策課の設置目的は,将来実施されることとなるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することであり,その業務内容は,Y採掘事業に関し,情報収集等による安全性監視,事業者に対する安全性に関する指導・助言,市民への対応や広報活動,異常発生時の市民への情報提供,市民を含めた関係者による意見交換会の運営等をすることであった。
そして,A市は,Y対策課のための専門職員を募集することとした。その募集要項において,採用に当たっては,Y対策課の設置目的や業務内容に照らし,当該人物がY対策課の職員としてふさわしい能力・資質等を有しているか否かを確認するために6か月の判定期間を設け,その能力・資質等を有していると認められた者が正式採用されると定められていた。
上記職員募集を知ったBは,Yの採掘技術が改善されたことを踏まえてもなお,いまだ安全性には問題が残っているので,現段階でもY採掘事業には反対であるが,少しでもその安全性を高めるために,新設されるY対策課で自分の専門知識をいかし,市民の安全な生活や安心を確保するために働きたいと考え,Y対策課の職員募集への応募書類を提出した。
他方,Cは,以前同様にY採掘事業は絶対に許されないと考えていた。Cは,Y対策課の職員になれば,Y採掘事業の現状をより詳細に知ることができるので,それをY採掘事業反対運動に役立てようと思い,Y対策課の職員募集への応募書類を提出した。
A市による選考の結果,BとCは,Yについてこれまで公に意見を述べたことがなかったDら7名(以下「Dら」という。)とともに,Y対策課の職員として採用されることとなった。しかし,その判定期間中に,外部の複数の者からA市の職員採用担当者に対して,Bについては甲市シンポジウムにおいて上記のような発言をしていたことから,また,Cについては甲市シンポジウムにおいて上記のような言動をして事件を起こし,前科にもなっていることから,いずれもY対策課の職員としては不適格である旨の申入れがなされた。そこで,A市の職員採用担当者がBとCに当該事実の有無を確認したところ,両名とも,その担当者に対し,それぞれ事実を認めた。その際,Bは,Y採掘事業には安全確保の徹底が必要不可欠であるところ,A市におけるY採掘事業には安全性にいまだ問題が残っているので,現段階では反対せざるを得ないが,少しでもその安全性を高めるために働きたいとの考えを述べた。また,Cは,Y採掘事業の危険性を完全に回避する技術の開発は困難であり,安全性確保の技術が向上したとしてもリスクが大きく,Y採掘事業は絶対に許されないとの考えを述べた。その後,BとCの両名は,判定期間の6か月経過後に正式採用されず,Dらのみが正式採用された。
BとCは正式採用されなかったことを不満に思い,それぞれA市に対し,正式採用されなかった理由の開示を求めた。これに対して,A市は,BとCそれぞれに,BとCの勤務実績はDらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであったが,いずれも甲市シンポジウムでのY採掘事業に反対する内容の発言等があることや,Y採掘事業に関するそれぞれの考えを踏まえると,Y対策課の設置目的や業務内容に照らしてふさわしい能力・資質等を有しているとは認められなかったと回答した。
Bは,Cと自分とでは,A市におけるY採掘事業に関して公の場で反対意見を表明したことがある点では同じであるが,その具体的な内容やその意見表明に当たってとった手法・行動に大きな違いがあるにもかかわらず,Cと自分を同一に扱ったことについて差別であると考えている。また,Bは,自分と同程度あるいは下回る勤務実績の者も含まれているDらが正式採用されたにもかかわらず,A市におけるY採掘事業に反対意見を持っていることを理由として正式採用されなかったことについても差別であると考えている。さらに,差別以外にも,Bは,Y採掘事業を安全に行う上での基本的条件に関する自分の意見・評価を甲市シンポジウムで述べたことが正式採用されなかった理由の一つとされていることには,憲法上問題があると考えている。
そこで,Bは,A市を被告として国家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。
〔設問1〕(配点:50)
(1) あなたがBの訴訟代理人となった場合,Bの主張にできる限り沿った訴訟活動を行うという観点から,どのような憲法上の主張を行うか。(配点:40)
なお,市職員の採用に係る関連法規との関係については論じないこととする。また,職業選択の自由についても論じないこととする。
(2) (1)における憲法上の主張に対して想定されるA市の反論のポイントを簡潔に述べなさい。(配点:10)
〔設問2〕(配点:50)
設問1(1)における憲法上の主張と設問1(2)におけるA市の反論を踏まえつつ,あなた自身の憲法上の見解を論じなさい。
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